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日本小児口腔学会学術大会 IN新潟 その3

ランチョンセミナーは「小児がん治療のための口腔管理 -米国小児歯科学会ガイドラインを中心に-」と題して新潟大学医歯学総合病院歯科放射線准教授 勝良剛詞先生の講演でした。

成人でもがん周術期(がん手術の前後の期間)の口腔ケアが術後の感染症リスクを軽減させたり、患者のQOL(生活の質)の向上に寄与することから医歯連携の観点から注目されています。今回の講演はその小児版ですね。

 

小児がんの年間発生数は2,000~2,500人(小児人口1万人あたり1~1.5人)ですべてのがん年間発生数が865,000~870,000人に比べ少なく思われるかもしれませんが、小児死因では不慮の事故の34.1%に次ぎがんは13.7%で2位です。

小児がん全体の生存率は近年では約70~80%になります。

小児がんの特徴としては早期に全身転移しやすい、抗がん剤や放射線に対して感受性が高い(効果がでやすい)一方、子ども自身が化学療法や放射線治療により影響を受けやすく生涯にわたるQOLを重視した対策が必要だといわれています。

小児がん治療の口腔有害事象としては以下があります。

化学療法では口腔粘膜炎、感染症による粘膜障害、歯性感染症、骨髄移植ではGVHD(移植片対宿主病)による口腔乾燥症、粘膜炎、う蝕や歯周病、薬剤性歯肉増殖症、薬剤関連顎骨壊死です

放射線照射では、口腔粘膜炎、感染症による粘膜障害、歯性感染症、放射線性口腔乾燥症、放射線性う蝕、歯周病、放射線性顎骨壊死などがあります。

がん治療中の有害事象として疼痛や吐き気、下痢や潰瘍形成が低栄養や感染症を引き起こし治療意欲の低下をまねいて治療成績の低下をまねくという悪循環に陥ります。

がん治療を円滑に乗り越えるために栄養、疼痛、感染の管理が重要です。

口腔管理の現状としては、セルフケアが困難であり何らかの口腔内のトラブルがあってから歯科が介入するケースが半数を占め、介入方法や内容について半数の施設で決まりがない状況です。

2/3の施設では十分な多職種連携が取れていない現状が報告されています。

米国小児歯科学会ガイドラインでは、がん治療前の口腔管理のポイントとして3つあげています。1つ目は潜在的な口腔の感染源と局所刺激の除去・安定を図ること、2つ目は多職種とのコミュニケーション、3つ目が患者や保護者に対する治療に伴う口腔の問題とそれらを最小限にするための最適な対応について教育が重要としています。

血液学的には好中球数に応じて抗菌剤の予防投与したり、血小板数に応じて止血シーネの作製や各種止血剤を用意したり、状況により血小板輸血したりします。

歯科治療はがん治療前に完了するのが理想です。骨髄抑制期には歯科治療は行いません。歯科治療の優先順位は、感染症、抜歯、歯面の研磨、スケーリング(除石のことです)、組織刺激になる歯(未処置のう蝕や鋭縁な歯)の処置が優先されます。

永久歯の歯内療法や不適合修復物、初期う蝕の処置は優先順位が低くあとでも可能です。

う蝕治療では、C1から中等度のC2については治療期間まで十分な期間があれば修復、期間がなければ応急処置またはフッ化物の応用です。深在性のC2では、永久歯は抜髄(神経をとります)、乳歯は抜歯です。歯内療法では、永久歯C3処置歯は根尖病巣の有無に関わらず経過観察、C3は治療開始まで1週間以上あれば歯内療法、なければ抜歯、乳歯ではC3は抜歯、C3処置歯も病巣あれば抜歯です。矯正装置は、適合良好で口腔衛生良好な場合で粘膜炎リスクが低い場合除いて装置は除去します。

装置が撤去困難な場合はマウスガードを作製します。萌出歯の歯肉弁は切除します。晩期残存乳歯も抜歯です。その他、修復不可能な歯、残根、歯根破折歯、歯周ポケットが7mm以上の場合、症状のある埋伏歯は抜歯の対象になります。

これらの治療方針に基づき、口腔の状況の情報提供を多職種に行うとともに口腔の安定化に要する期間を明示します。

がん治療開始から骨髄抑制期の口腔有害事象は、口腔粘膜炎、口腔乾燥、口腔感染症、歯痛、出血の順です。口腔の維持ケアとしてセルフケアと専門的ケアがあります。ブラッシングは普通の歯ブラシで行います(超軟性歯ブラシやスポンジブラシは不可)。粘膜炎がなければフッ素入りの歯磨剤を、粘膜炎があれば合成界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)が入っていない低刺激の洗口剤に湿らせて行います。ラウリル硫酸ナトリウムは吸水性があるため、口腔内の乾燥助長してしまいます。当院扱いの商品としては、Home Gelは発泡剤入っていませんし、Check upの発泡剤はヤシ油脂ですので安心です。うがいと保湿は、2時間間隔で(6~8回/日)行います。うがいは唾液中の抗がん剤の濃度を下げる意味合いもあります。唾液中の抗がん剤が正常組織に為害性を及ぼすためです。粘膜の荒れを防ぐため、うがいの後は保湿します。洗口剤、保湿剤ともにT&K社(www.comfort-tk.co.jp)のぺプチサル・マウスウォッシュとぺプチサル・マウスジェルを推奨していました。

口腔ケアの効果は顕著で小児腫瘍患者での口腔粘膜炎発生率はグレード2以上で37%だったものが2%へ減少し、グレード3と4では11%が0%になったとの報告があります。また、入院期間中の38℃以上の発熱も10.1%が5.4%に減少しました。

がん治療後の口腔管理のポイントとしては、①口腔の維持ケアとしてセルフケアと専門的ケアによる口腔状態の維持、②晩期口腔有害事象の治療や管理、③患者教育の強化-口腔ケアと歯科管理の重要性を再指導が挙げられます。

がん治療後の問題としては、口腔粘膜炎、口腔乾燥、う蝕、口腔カンジダ症、ウィルス感染、歯の異常、顎骨の異常です。がん治療で唾液線が機能を失ったりする後遺症で粘膜炎や乾燥症、う蝕がみられたりします。

抗がん剤や放射線の影響で歯の形成異常や障害がみられたりします。ケアとしては、1日2~3回の歯ブラシと1日1回のフロス、う蝕になりやすい食事(糖質や炭水化物に富んだもの)は避ける。ショ糖入りの経口小児薬は気をつける。フッ化物入り歯磨剤を使用する。洗口剤を使用し口腔乾燥症を防ぐ。保湿ケアを行う。定期的な歯科医院の受診。最低でも6か月ごと、GVHDや口腔乾燥症ではより短い間隔で受診が重要です。

歯の異常は、放射線治療や化学療法、造血幹細胞移植のいずれでもみられます。詳細な発生頻度などは省略しますが、歯の無形成、低形成、小歯症、エナメル質低形成、歯根短縮、萌出遅延などの影響がみられます。

矯正治療に関しては、がん治療終了後2年再発がなく、免疫抑制剤を使用していない場合に限り行えます。ただし、歯根吸収を最小限にする治療計画、より弱い力での歯の移動、通常より短い治療期間、シンプルな方法、下顎には行わないなど制約があります。骨吸収阻害剤いわゆるBP製剤を使用している場合は、歯が動きにくいなどの影響があるため、家族を含めた多職種連携が必要だということです。

最後に、口腔の有害事象の発症と重篤度の低下は、がん治療の負担を軽減し治療成績の改善と治療全体のコストの軽減につながるということでした。

 

二子玉川ステーションビル矯正・歯科

髙見澤 豊